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Channel: ベイのコンサート日記
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アンティ・シーララ ピアノ・リサイタル (5月1日、すみだトリフォニーホール)

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 1979年フィンランド、ヘルシンキ生まれのアンティ・シーララ。その音楽は一言で言えば「クール」。スタイリシュなインテリアのようにクリーンな響きだが、少し無機質でもある。2003年リーズ国際ピアノコンクール第1位の実績は立派で、共演した指揮者もブロムシュテット、サロネン、ビシュコフといったビッグネームが並ぶ。

 

 今日のリサイタルでは、自国の作曲家ラウタヴァーラと、ショパンがよかった。

ラウタヴァーラ「イコンop.6」は、メシアンにも通じる神秘的な世界やジャズを思わせるリズムも出てくるが、シーララのピアノの透徹した響きがぴったりと合う。

 ショパンの「3つのマズルカop.56」は徐々に体調が不安定になっていく時期の作曲で、インスピレーションに欠けるという批判もあったとのこと。シーララのどこか突き放したような演奏には、図らずも寂しさと孤独感がにじみ出ているように感じられ、そこに惹かれた。

 

 前半最後のベートーヴェン「ピアノ・ソナタ第21番《ワルトシュタイン》」は、速めのテンポで切れ味よく進む。現代的だが、メカニカルで冷たく感じられるときもある。テクニックは安定しているので、安心して聴いていられるが、ロマン性や聴衆に何かを語りかけようとする要素が少ないため、音楽が一方通行になっている。

 

 同じようなことは、プログラム最後のシューマン「幻想曲」でも言える。スケールが大きく完璧に弾いているが、これもシューマンのロマン性が充分に表現されたとは思えない。第1楽章の第1、第2主題など、もっと心に響く旋律のはずだが、思い入れたっぷりという弾き方とは違い、作品を客観的に分析するように聞こえる。

 

 シーララは20156月にも聴いており、その時は「クリスタルで切れ味の良い美しい音を持っており、みずみずしさもある。」と評価していた。その印象は今回も大きく変わらない。彼の個性を長所として、聴き手も聴かなければいけないということだろう。

 アンコールにシベリウス「10の小品」から第1曲「夢」が弾かれたが、シーララらしい演奏だった。

 

 


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