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Channel: ベイのコンサート日記
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ベートーヴェン:歌劇『フィデリオ』(演奏会形式) チョン・ミョンフン東京フィル

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58日、サントリーホール)
指揮:チョン・ミョンフン
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
コンサートマスター:近藤 薫

フロレスタン (テノール):ペーター・ザイフェルト

レオノーレ (ソプラノ):マヌエラ・ウール

ドン・フェルナンド(バリトン):小森輝彦

ドン・ピツァロ (バス):ルカ・ピサローニ

ロッコ(バス):フランツ=ヨーゼフ・ゼーリヒ

マルツェリーネ(ソプラノ):シルヴィア・シュヴァルツ

ヤッキーノ(テノール):大槻孝志

合唱:東京オペラシンガーズ
合唱指揮:田中祐子

お話:篠井英介
字幕:小宮正安

 

 プログラム冒頭にチョン・ミョンフンの歌劇『フィデリオ』についての見解が「ベートーヴェン『フィデリオ』によせて」として掲載。要点は以下の5つ。

1.『フィデリオ』は演奏会形式で上演した方がよい。

2.『第九』と似たメッセージがある。

3.『フィデリオ』の深遠な音楽の魂はすべて『レオノーレ』序曲第3番に集約されている。通常の『フィデリオ』序曲はとりあげない。
4. 『レオノーレ』序曲から軽いドラマ、そして本当のドラマに入っていき、第2幕フロレスタンのアリアで『レオノーレ』序曲に込められていたものがわかる。

5.ベートーヴェンを語ることは人間の真実を語ること。演奏からスピリットを感じてほしい。

 

このチョン・ミョンフンの意図は、演奏に充分反映された。『レオノーレ』序曲第3番は、崇高さとともに、祈り・敬虔の心情が込められており、その深い表現は通常の演奏会や、歌劇『フィデリオ』の第2幕で演奏される輝かしさが強調されたものとは、ひと味違う。コーダの高揚は、抑圧に対する闘いと勝利という意味がはっきり伝わってきた。
 第2幕フィナーレの合唱が加わっての歓喜の爆発は、『苦悩から歓喜へ』のベートーヴェンのメッセージが強く込められており、『第九』のフィナーレをまざまざと想起させると同時に、『レオノーレ』序曲第3番で提示された重い課題が、フィナーレの歓喜で解決されるという充足感を与えてくれた。

 

今日の『フィデリオ』の主役は、歌手陣ももちろんだが、どちらかと言えば、チョン・ミョンフン指揮の東京フィルがその座にふさわしいと言える。それほどオーケストラが雄弁で、音楽の主導権を担っていた。東京フィルの集中と熟達は、20157月のプッチーニ歌劇『蝶々夫人』(演奏会形式)での破格の名演を思い出させた。

 

歌手陣は主役のフロレスタン役ペーター・ザイフェルトと、レオノーレ役マヌエラ・ウールが好調で、公演の成功に大きく貢献した。ザイフェルトの登場の一声“Gott”(神よ)に込められた気合は凄まじく、音程の僅かな瑕は霧消、ホールは震撼した。

ウールの第1幕の長大なレチタティーヴォとアリア『人でなし!どこへ行く気?』もまた凛としたレオノーレにふさわしい歌唱。ここで特筆したいのは、東京フィルのホルンの三重奏。完璧と言いたいハーモニーで、ウールのバックを見事に務めた。


 ピツァロ役ルカ・ピサローニは声があまり出ておらず、悪役としては少し存在感が薄い。ロッコ役フランツ=ヨーゼフ・ゼーリヒが味わいのある歌唱。彼とウールそしてマルツェリーネ役シルヴィア・シュヴァルツとヤッキーノ役大槻孝志が加わった第1幕の四重唱『ああ、とってもうれしいわ』は、非常に美しかった。

 

 チョン・ミョンフンと東京フィルと並び、合唱の東京オペラシンガーズが、素晴らしかったことが印象的。指揮の田中祐子の力もあるのだろうか、時として新国立劇場合唱団に一歩譲ることがあった東京オペラシンガーズが、今回は見違えるような緊密なハーモニーを聞かせた。

 

 素晴らしい公演だったが、ひとつ残念だったのは、開演に先立ち語りの篠井英介が歌劇『フィデリオ』をわかりやすく紹介し始めたところで、最前列の男性客が舞台を叩きながら、『とっとと演奏しろよ!』と暴言を吐いたこと。『すぐ終わりますので』と返した篠井の応対は立派だった。
 言葉による暴力は決して許されるものではない。彼の暴言は篠井英介や、袖で控えるマエストロ、チョン・ミョンフンと東京フィル、歌手陣、合唱ほか公演に関わる全員に対する侮辱であり、会場の聴衆に対する暴言でもある。この「事件」に対する対処については、今後論議されると思うが、個人的には係員が退場を促してもよかったと思う。

 今知ったが、くだんの暴言の主は、
なんと音楽評論家だと言う。同業として信じられない。東京フィルは告訴してもよいと思うが、その前に彼自身が周りからの白い目に今後長く晒されることになるだろう。

 


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