(5月18日、すみだトリフォニーホール)
バッファロー・フィルの音楽監督、北アイスランド・アルスター管弦楽団の首席指揮者を務め、北米のメジャー・オーケストラへの客演も多い女性指揮者、ジョアン・ファレッタの新日本フィル初登場。
明快な指揮でスケール感もある。女性らしい柔らかな響きは、新日本フィルの持ち味とも相性がいい。バーバー「交響曲第1番」は、冒頭から気持ちよく新日本フィル鳴らしながら、推進力がある演奏を展開。楽章の指示はないが、4つの部分からなるこの曲では第3部アンダンテ・トランクイロはオーボエのソロ(古部賢一)が美しい。第4部のコントラバスとチェロのパッサカリア主題をしっかり響かせつつ、コーダに向けて盛り上げて行く手腕もなかなかのものがある。男性の指揮者のような切れ味と重みはあまりないが、音楽に奥行きを感じさせる。
山下洋輔をソリストに迎えたガーシュイン「ピアノ協奏曲」でも、ファレッタはオーケストラのコントロールがとても自然で、聞いていて心地よかった。山下のピアノは、ジャズで聴くときと印象が違い、ずいぶんおとなしい。ピアノがあまり鳴っていない。タッチも強くない。演奏時間も40分以上(50分という話も)あり、しかも各楽章にピアノのカデンツァ(アドリブ)が入る。ピアニストの負担も大きく、ペース配分上ジャズとは勝手が違い、山下も大変だったのだろうが、最後のコーダはしっかり盛り上げ、熱演だった。
ファレッタと新日本フィルがつくりだすブロードウェイらしい華麗な響きは絢爛豪華だった。バーバーにしてもガーシュインにしても新日本フィルは、エンタテインメント的要素のある音楽の演奏がとてもうまい。チャップリンの映画音楽や、久石譲との共演などの積み重ねが生きているのかもしれない。
後半は、1960年フィラデルフィア生まれの作曲家、アーロン・ジェイ・カーニスの「ムジカ・セレスティス」から。10分の弦楽だけの作品。タイトルは、「天上の音楽、神々しい音楽」の意味がある。ヒーリング・ミュージックのように静謐で繊細であり、癒されるが、バッハのような深みはないと思う。
最後のコープランド「バレエ組曲《アパラチアの春》」は、ファレッタの人柄を表すようにとても温かい演奏。家庭的であり、親しみが感じられる。スクエアダンスや、シンプル・ギフトのメロディもファレッタの手の内に入っており、自分たちの音楽という自然さがあった。
アンコールのデューク・エリントン(ロン・コリエ編)、「リヴァー組曲」より”THE LAKE”は、ファレッタがナクソス・レーベルに全曲録音もしており、得意の曲だろう。その第4曲である”THE LAKE”は、哀愁を帯びた格調の高い作品。この作品は、アメリカン・ダンスシアターを創設した振付師アルヴィン・エイリーのために、エリントンが亡くなる直前に書いたバレエ音楽で全7曲からなるもの。1970年ニューヨーク、リンカーン・センターで初演されている。
写真:ジョアン・ファレッタ(c)Mark Dellas