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Channel: ベイのコンサート日記
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アンジェラ・ヒューイット J.S.バッハ「平均律クラヴィーア曲集」第1巻

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522日、紀尾井ホール)             
 休憩をはさんで、実質演奏時間2時間の充実したリサイタル。ヒューイットは足首の骨折も完治したようで、シックなドレスでいつもと変わらず登場した。調子はとてもよさそうだ。ピアノはファツィオリ。

 ヒューイットの演奏は曲ごとの性格や個性を、明確に、掘り下げて表現する。バッハの描こうとした世界とバッハの心情に共感を持って演奏をすすめていく。演奏全体にヒューイットの人間性を映し出すように、毅然とした品格があり、深い洞察力を感じる。

 前半は各曲をドラマティックに描きだし、外に向かっていく勢いがあった。後半は徐々に内面に向かうような流れがあり、第24番で最も深い段階に達した。長調の曲は生命力にあふれ、短調の曲は深い瞑想、祈りを感じた。

 前半のピークは第8番ホ短調、第12番ヘ短調に、後半は第22番変ロ短調、第24番ロ短調にあった。いずれも短調の曲だった。

 ヒューイットの演奏は、端正で誇張や恣意性、あるいは情感に溺れるということはないが、整って様式的にも完璧な中にも、バッハの人間性、喜怒哀楽をかなり赤裸々に描いているようにも思える。

 最初から最後まで、集中力が切れなかったが、ピアノの横に置いたコップの水を飲む場面もあった。前半に曲間に少し長めのブレイクをとったとき、ここぞとばかりに咳をする聴衆が何人かいた。いつもにこやかなヒューイットにしては珍しいことに、一度ならず二度も咳の音がした方向をにらみつけていた。よほど気になったのだろうか。

写真:(cKiyotane Hayashi

 


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