(11月4日、NHKホール)
ビエロフラーヴェクとチェコ・フィルによる「わが祖国」はこの曲のスタンダードと言わざるを得ない説得力があった。
「モルダウ」の冒頭2本のフルートのフレーズの微妙な強弱や表情、モルダウの主題の弦の少しくすんだしかし美しい音色、田舎の踊りの軽いリズム感、急流の中低音弦とヴァイオリンの厚いハーモニー。どこをとってもチェコ以外の国のオーケストラでは出せない味わいが充満している。
チェコ・フィルは16型。ビエロフラーヴェクの希望で木管は倍管に、すなわちフルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットは4本。ホルンは6本、トランペット、トロンボーンは4本。ホルン以外の金管は上手に並び、コントラバス8台もウィーン・フィルのように正面奥に配置。ティンパニほか打楽器も上手に置かれた。ハープは下手上段に2台。
ビエロフラーヴェクの指揮は真摯なもので、誇張がなく、スメタナに奉仕するように真正面からこの作品に向かっていた。
「シャルカ」以降、「ボヘミアの牧場と森から」「ターボル」までが特によかった。「シャルカ」を表すクラリネットのソロ、騎士ツチラドを示すチェロの音色が味わい深い。「ボヘミアの牧場と森から」はボヘミアの草原の匂いが押し寄せてくるようだ。そして「ターボル」での金管群の柔らかく輝かしい響きとフスの讃美歌の木管の温かなハーモニーも素晴らしい。
「ブラニーク」も決して咆哮興奮することなく格調高く終わる。
1991年11月2日サントリーホールで聴いたクーベリック最後の来日でのチェコ・フィルとの「わが祖国」の壮絶な演奏は今も忘れられないが、作曲家への愛に満ちたビエロフラーヴェクの「わが祖国」も記憶に残る演奏になるだろう。ただし、ホールが音響劣悪なNHKホールではなく、サントリーホールなど音楽専用ホールであれば、感動はおそらく倍になっていたと思う。
アンコールはドヴォルザークのスラヴ舞曲作品72の第1が演奏された。
(c) Lloyd Smith