(6月8日、東京芸術劇場コンサートホール)
ストラヴィンスキー「バレエ音楽《ペトルーシュカ》(1947年版)」(コンサート・バージョン)と、ファリャ「バレエ音楽《三角帽子》」を並べたバレエ音楽プログラム。
指揮のアレホ・ペレスは昨年7月19日東京文化会館での東京二期会《魔弾の射手》で聴いていた。この時は読響がピットに入っていた。歌手との一体感を保ちテンポ良くまとめ上げていた印象がある。
バレエもオペラと同じくストーリーがあり、登場人物の演技や感情が伴う。オペラ指揮者として経験が豊富なペレスは、バレエ音楽も「つかみ」がうまい。聞かせどころを心得ている。加えて、ペレスの指揮は切れ味が良く躍動感にあふれている。何よりも色彩感が豊かで、南国的な極彩色の音楽が生まれていたのが楽しい。
《ペトルーシュカ》では、通常オーケストラの後方に置かれるピアノが、屋根を取り外し指揮台の前に置かれた。その配置は長尾洋史の演奏の良さも相まって音楽にアクセントを加え効果的だった。都響は各奏者の技量が発揮され、特にフルート、クラリネット、イングリッシュ・ホルン、ファゴットなど木管が好調。金管も切れの良い音だった。
《ペトルーシュカ》(1947年版)はコンサート・バージョンを採用したため、「仮面をつけた人々」で鮮やかに終わってしまう。「格闘」「ペトルーシュカの死」「警官と人形使い~ペトルーシュカの霊」はカットされた。個人的には静かに終わる通常版が好きなのだが。
ペレスはスペイン語圏アルゼンチン出身であり、スペインには親近性を持っている。後半のファリャ《三角帽子》はそのペレスの本領が発揮された。《ペトルーシュカ》以上に色彩的で、スペイン的な強いリズム感が前面に出ていた。
冒頭のティンパニのリズムにのせてトランペットのファンファーレが続き、メゾ・ソプラノの加藤のぞみが「粉屋の女房」の歌を歌う。ヨーロッパの歌劇場で活躍し、バレンシア在住の加藤の歌唱は艶やかでスペイン情緒がある。
都響全員によるパルマ(手拍子)と「オレ!」の掛け声とカスタネットが聴き手を一気にアンダルシア地方の田舎の街に誘う。都響の掛け声はなかなか様になっていた。ペレス指揮の「粉屋の女房の踊り」(ファンダンゴ)の粘りのある表情がいい。
第2幕「粉屋の踊り(ファルーカ)」は、フラメンコを踊る踊り手の足踏みや、周りの手拍子が聞こえてくるような、野性的で鋭いリズムを刻んでいた。圧巻は「終幕の踊り(ホタ)」。祭りが最高潮を迎えるような、都響から熱く色彩感のある音と熱狂的な響きを引き出した。
ペレスの指揮はダイナミックで、細かな表情にはそれほどこだわらない。少し粗い部分もあるが、全体の流れが良いのと、音色がカラフルで場面ごとの描写が鮮やかだった。とても楽しいコンサートだった。
写真:アレホ・ペレス(c) EFE/Paula Pérez de Eulate