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Channel: ベイのコンサート日記
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紀尾井 明日への扉 ディアナ・ティシチェンコ(ヴァイオリン)

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(7月25日、紀尾井ホール)

 ディアナ・ティシチェンコは1990年ウクライナ(現クリミア)生まれ。18歳でグスタフ・マーラー・ユーゲント・オーケストラの最年少コンサートマスターに選ばれた。2018年ロン=ティボー=クレスパン国際ヴァイオリンコンクールで優勝。

 

 弓圧をあまりかけない繊細な弱音が特長のひとつ。ハーモニクスや高音も自由自在、テクニックは安定している。今日のプログラムは盛沢山だったが、最後まで疲れも見せず、全く危なげのない演奏は、無理のない奏法のためでもあるのだろう。

 

ラヴェル「ヴァイオリン・ソナタ ト長調」は提示部の4つの主題を繊細なニュアンスで弾いた。第2楽章のブルースは思い切った大胆さがほしいところ。第3楽章の無窮動は健闘。

 

エネスク「ヴァイオリン・ソナタ第3番イ短調」の第2楽章のハーモニクスは正確そのもの。モルヴィア地方の「熊のダンス」をテーマにしたロンド形式の第3楽章は力強さをもっと出してもよかったと思う。

 

シマノフスキ「神話」は技術的には問題ないが、音色やニュアンスの持ち駒があまり多くないのか同じような表情で弾くので、たた単調に感じた。音圧の弱さもあり、音をなぞっているように聞こえてしまう。

 

プロコフィエフ「ヴァイオリン・ソナタ第1番ヘ短調」第1楽章は、作曲者が初演者のオイストラフに「墓場にそよぐ風のように」と指示したという、不気味さや陰鬱さなど、音楽の意味があまり伝わってこない。第2楽章は激しさがあり良かった。弱音器をつけた第3楽章も音楽が流れていくだけのよう。

しかし、第4楽章のアレグリッシモは完璧で集中力があり、素晴らしかった。

 

ピアノは庄司紗矢香、カピュソン、バティアシュヴィリなど著名アーティストとの共演も多いジュリアン・カンタン。ティシチェンコとのリハーサルを綿密に行ったようで、しっかりとサポートしていた。

 

 ディアナ・ティシチェンコはにこやかでステージマナーも良く、伸びやかで素直な音楽性は聴衆からも支持されると思う。今秋にはアルバムもリリースされる。ソリストとしてこの先さらに成長していくことを期待したい。


 


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