(8月1日、東京文化会館大ホール)
これほど超満員の東京文化会館大ホールを見たのは初めて。小林研一郎による「ボレロ」など名曲に加え人気の村治佳織の出演が聴衆を惹きつけたのだろう。
その村治佳織によるロドリーゴ「アランフェス協奏曲」が本当に素晴らしかった。有名な第2楽章アダージョでは、フレーズひとつひとつに多彩な表情があり、それぞれに意味が込められている。そうしたフレーズが連なり旋律となり、全体でひとつの大きな物語となる。中身の濃い文学を読むような深みを感じさせる。また、村治佳織のつま弾く響きがとても温かく、語り口の温かさとなって聴き手の心に優しく音楽が沁み込んでくる。
ロドリーゴ本人にも会いに行き交流を深め、数限りなくこの作品を演奏してきた村治佳織だからこその名演だが、小林研一郎指揮都響の貢献も大きい。イングリッシュ・ホルンのソロをはじめ、ホルンのソロも万全だった。アンコールはタレガ「アルハンブラの思い出」。
テクニックは完璧だが、それは音楽の背後にあって前には出てこない(そういう演奏はよくある)ことが、村治佳織の良さだと思う。
小林研一郎は1曲ごとにユーモアたっぷりに解説を加えながら演奏を進めていった。「ボレロ」では演奏前にスネアドラムとフルートで主題を紹介したり、アンコールに最後の1分間のクライマックスをもう一度演奏したりというサービスぶり。 「ボレロ」以外の曲目はロッシーニ「歌劇《セビリアの理髪師》」序曲、ウェーバー「歌劇「魔弾の射手」序曲、シベリウス「交響詩《フィンランディア》」。コンサートマスターは山本友重。
楽しいコンサートだった。