渋谷の午後のコンサート<歌うヴァイオリン> (8月9日、オーチャードホール)
前半はエッティンガーと東京フィルがロッシーニ「歌劇《ウィリアム・テル》序曲」を切れ味の良い演奏で披露した後、大谷康子がヴァイオリンの名曲を4曲演奏した。いずれも大谷康子の明るく優しい人柄が演奏によく出ており、味わい深かった。
モンティ「チャールダーシュ」は楽しく乗りが良い。エッティンガーと東京フィルも緩急の表情が大胆な大谷と一体となっていた。
J.S.バッハ「G線上のアリア」は演奏前に大谷が『今日は特別の日(長崎原爆投下)。平和を願って祈るような気持ちで弾きます』と語り、繊細な弦をバックに深い演奏を聴かせてくれた。
ベートーヴェン「ロマンス第2番」も潤いのある音で美しく弾かれたが、表情にもう少し変化をつけてもよかったように思った。
最後は大谷康子がこれまで800回は弾いているというサラサーテ「ツィゴイネルワイゼン」。大谷の速い動きにオーケストラがよくついていた。
後半は「午後のコンサート」恒例の聴衆からの質問コーナー。今回は昔バリトン歌手だったというダン・エッティンガーの歌が聞きたいというリクエストが寄せられた。エッティンガーの歌が聞けるかもと期待したが、『今は指揮に専念している。指揮と歌を両立できるのはプラシド・ドミンゴだけ』とうまくかわしていた。
チャイコフスキー「交響曲第6番《悲愴》」は、ロシア風の情念を込めた表情とは異なり、揺るぎない構造を持ち作品の輪郭をくっきりと描く精悍な演奏。チャイコフスキーのロマンティシズムは少ないが、こういう男性的な《悲愴》の行き方もまた新鮮だと思う。東京フィルは金管が健闘。木管もファゴットをはじめククラリネット(アレッサンドロ・ベヴェラリ)やフルートがよく歌っていた。14型の編成だがコントラバスは8台で重厚な低音を奏でた。コンサートマスターは三浦章宏。