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Channel: ベイのコンサート日記
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上岡敏之 新日本フィル ブルックナー「交響曲第7番」(ハース版) 

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95日、サントリーホール)

 ものすごく精緻なブルックナー交響曲第7番。上岡らしい繊細なピアニッシモ、息の長いフレーズの旋律線。考え抜かれた金管と木管のバランス。ヴィオラ、チェロ、コントラバスの中低音の神経を行き渡らせた響き。1小節たりとも気の抜けない70分だった。あまりにも濃密なため、細かく全部を追いきれない。聴く方ですらこの状態なので、楽員の集中力も限界を超えていたかもしれない。

 

 第1楽章冒頭の弦のトレモロはやっと聞こえるかどうか。ヴァイオリンの弓は止まっているように見えた。しかしまもなくチェロとホルンによる第1主題が聞こえてきたので、確かにトレモロが奏されたのだろう。

 

 第1主題、第2主題は、いずれも息長くフレーズがなめらかにつながっていく。第3主題の総奏は、ハーモニーが美しく溶け合う。展開部のチェロの響きも美しい。全てに渡って上岡の美意識が浸透している。
 コーダでは、練習番号Zからのfffのティンパニの重みのあるトレモロを十二分に引き出し、最後は腹に響くトゥッティの一撃で締めくくった。

 

 第2楽章アダージョは上岡の指揮の特長が最大限に発揮された。とにかく旋律線が長い。弾く方も聴く方もその息の長さ、なめらかにいつまでも続く稜線についていくのが大変だ。

ハース版を使用したため、頂点ではシンバルやトライアングルは鳴らされない。上岡の透明感のあるブルックナーには、ハース版がふさわしい。最後の金管のハーモニーは美しかった。ワーグナーテューバは大健闘だった。

 第3楽章スケルツォは、弦の刻むリズムがきめ細かく響きが良い。トリオは、伸びやかで息長く歌う。

 第4楽章フィナーレでは、金管主体の第3主題をしっかりと鳴らす。第2主題のピッツィカートもいい響きだ。ただ、ホルンやワーグナーテューバは、疲れのためか瑕疵が目立った。

コーダでの弦の渾身のトレモロをはじめ、楽員のエネルギーの噴出はすさまじく、終わったあとのブラヴォも、最近の新日本フィルの公演の中ではもっとも多かったのではないだろうか。

 

 前半はシューベルト「交響曲第4番《悲劇的》」。今季新日本フィルによるシューベルト交響曲ツィクルスの第1弾だ。これは「歌、歌、歌」。よく歌うシューベルトだった。

 

上岡は「音楽の友」7月号の私のインタビューに際して、『シューベルトは起承転結の詩のフレーズと音楽のフレーズを融合させました。音符に隠されたもの、音符がどうやってできてきたかという音楽のルーツがシューベルトの中にぎっしりと詰まっています。』と話してくれた。

 

ちなみに《悲劇的》とブルックナーを組み合わせた意図は、『「第4番《悲劇的》」ではシューベルトが悩んでいます。カトリック教徒だからきっと教会に救いを求めたでしょう。ですから同じカトリック教徒のブルックナー「交響曲第7番」と組み合わせました。』とのことだった。

 今日のブルックナーの息の長いよく歌う演奏や、ひとつひとつのフレーズにも、上岡がシューベルトを通してドイツ音楽の源流をさぐり、それを新日本フィルの演奏に生かすという意図が、うまく働いていたように思えた。今季の上岡と新日本フィルの演奏会は聞き逃せない。

 なお、9月8日(日)14時から、横浜みなとみらい 大ホールでも、同じプログラムの公演がある。サントリーホールの瑕疵が修正され、更なる名演になるのではないだろうか。当日券もあるようなので、ぜひ足を運ばれてはみてはいかがでしょうか。

 

写真:上岡敏之()大窪道治

 


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