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Channel: ベイのコンサート日記
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山田和樹 日本フィル 横坂源(チェロ) 沼沢淑音(ピアノ) (9月4日・サントリーホール)

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指揮:山田和樹[正指揮者]

チェロ:横坂源

ピアノ:沼沢淑音

プログラム:

ガーシュウィン:アイ・ガット・リズム変奏曲

ミシェル・ルグラン:チェロ協奏曲(日本初演)

五十嵐琴未:櫻暁(おうぎょう) for Japan Philharmonic Orchestra(世界初演)

ラヴェル:バレエ音楽《マ・メール・ロワ》
 

プレトークに登場した山田和樹の第一声は『戻ってまいりました、サントリーホール!』。東京混声合唱団開発の歌えるマスクをつけ、『注文殺到で1万5千枚も売れ、東混はマスク屋のようです』とジョークを飛ばし、9月に始まる日本フィルの開幕定期演奏会スタートの喜びを語った。2時間のフルコンサートは初めてだという。

 

山田いわく、ここ数年シーズンのオープニングを任されており、いつも趣向を凝らしたプログラムを考える。

今日のプログラムの後半は本来、水野修孝「交響曲第4番」だったが、編成が大きいため、今回は見送った。今日のプログラムは、ラヴェルが鍵。ガーシュウィンが弟子入りを頼み、「二流のラヴェルになることはない」と言われ、逆にラヴェルは後にジャズの要素を取り入れた。

 

ミシェル・ルグランは、シリアスな作品で映画音楽とは全く異なる。80歳を過ぎて、ピアノ協奏曲とともに書いた。今日は日本初演。ジャズの要素があり、複雑な曲。5つの楽章からなり、第4楽章でチェロとピアノが二重奏を奏でる。チェロは素晴らしい横坂源さん。ガーシュインとルグランのピアノは沼沢淑音さん。

 

五十嵐琴未さんの「櫻暁(おうぎょう)」は7月中旬に、日本フィルのイメージ「桜」と、未来に向ける「暁(あかつき)」をイメージした5分くらいの作品を依頼した。

偶然だが、「暁(あかつき)」は日本フィル創立指揮者の渡邉暁雄先生の名前の一文字と同じ。

 

ラヴェル「バレエ音楽《マ・メール・ロワ》」は、ふだん組曲が演奏されるが、今日は序曲と間奏曲があるバレエ音楽の方を演奏する。

 

プレトークをほぼ紹介したので長くなってしまった。以下はコンサート・レヴューです。

 

 


ガーシュウィン《アイ・ガット・リズム》変奏曲は、色彩豊かでリズムの乗りが良く、山田和樹の面目躍如。ピアノの沼沢叔音(よしと)のピアノも軽やかで色彩が感じられる。

 

ミシェル・ルグランのチェロ協奏曲は、日本初演。映画音楽とは違い、クラシック語法を使った現代音楽。5楽章からなり、急─緩─急の楽章に続いて第4楽章は、チェロとピアノだけの二重奏となる。終楽章は、「レントよりゆっくりと」という指示のもと、チェロがゆっくりと歌い続け、最後は消え入るように終わる。

 

チェロは、横坂源。チェロは全曲ほぼ引き続けなければならない。横坂源のしなやかで艶のあるチェロは、最後まで充実しており、山田の指揮もガーシュウィンに続き、色彩感と切れ味があった。横坂源と沼沢淑音との二重奏にジャズを感じる。

 

ルグランが80歳を超えてから書いたこの作品は、ジャズ的リズムや構成の新しさ、抒情性は独自だが、全体として20世紀に入ってからの、プロコフィエフ、ショスタコーヴィッチ、オネゲルなどのチェロ協奏曲の枠を越えるような目新しさはない。生涯最後に、本格的なクラシック音楽を作曲し残したいという気持ちが押さえられなくなったのかもしれない。

 

横坂のアンコールは、カザルス「鳥の歌」。先日読響で聴いた宮田大はソロだったが、今回は日本フィルのチェロ・セクション4人による伴奏がついた。そのトップはミュンヘン国際音楽コンクールで、日本人として初めて優勝した佐藤晴真だった。佐藤は先だって、新日本フィルにも客演しており、各オーケストラに参加することで、オーケストラの勉強をしているのだろう。


横坂源のチェロの音や響きは、宮田大とは対照的で面白かった。言葉では難しいが、横坂がしっとりと潤いのあるチェロであるのに対し、宮田大は少し乾いた大陸的なスケールと土の匂いがする。

 

五十嵐琴未「櫻暁(おうぎょう)」は、弦楽器と管楽器だけの、夜明け前の光景が浮かぶような静謐な作品。ガーシュイン、ルグランの次に聴くと、淡白でしとやかで、日本そのものを感じる。

 

最後のラヴェル《マ・メール・ロワ》」は、フランス的な柔らかさと繊細さ、キラキラとした色彩感に満ちており、日本人の指揮者の中でもとびぬけてフランス的な色彩感を持つ山田の特長が良く出ていた。

 

望むらくは、終曲「妖精の庭」の盛り上げは、もう少し壮大なスケールで行ってほしかった。ただ、本来なら大きな編成で演奏するところを、10-8-6-4-3の10型という編成上の限界もあったのかもしれない。

山田和樹©Yoshinori Tsuru 沼沢淑音©Tomokatsu Seta

 


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