プログラム
スッペ:喜歌劇「詩人と農夫」序曲
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第0番
プロコフィエフ:交響曲 第5番
スッぺ喜歌劇「詩人と農夫」序曲は 胸のすくような生きのいい演奏。拍手が終わらないうちにすぐ演奏を始めるのも、勢いを感じさせる。チェロ首席伊藤文嗣のソロが、柔らかく深く、よく歌って良かった。ワルツの部分はリズムが重くならず、洗練された三拍子。原田はダンスもうまいのではと思った。 金管、打楽器は派手に鳴らすが、弦とのバランスはとれており、勢いだけの演奏ではない。最後はアッチェランドで追い込み、華々しく終わる。原田は、ハチャメチャのようで、よくオーケストラが聴こえており、どれだけ派手にやっても、下品にならないところに音楽センスの良さを感じさせる。
ベートーヴェンの「ピアノ協奏曲第0番」を聴くのは初めて。13歳の時の作品で、ハイドン、モーツァルト、エマニュエル・バッハの影響のもとに書かれており、後のベートーヴェンらしさを見つけることは難しい。自筆譜は残っておらず、筆写譜のピアノソロパートのみが残された。ただ、そのピアノ譜に管弦楽の前奏と間奏が書かれ、楽器指定もあるため、1943年ヴィリー・ヘスがオーケストラパートを復元。今日はその版を使った。
他には、オランダのピアニスト、ロナルド・ブラウティガムによるもの(BISに録音あり)、ボストン大学のジョン・ミッチェルによるもの、ハワード・シェリーによるもの(シャンドスのベートーヴェン・ピアノ協奏曲全集に収録)などが存在する、とのこと。
ピアノがほぼ弾きっぱなしで活躍、多くの装飾音が華麗な雰囲気をつくる鐵百合奈(てつゆりな)のピアノは、高音の情感のある瑞々しい音が魅力で、可愛らしいこの作品にふさわしい。
第1楽章のカデンツァは、ヘスのものではなく、鐵のオリジナルで、ベートーヴェンのこの時期の作品「選帝侯ソナタ」WoO47を参考にしたとのこと。第3楽章の主題は可愛らしく。耳に残る。原田東響は、丁寧なバック。鐵のアンコールは、ベートーヴェンの初期作品のように思えた。「選帝侯ソナタ」の3曲の中のいずれかの楽章かもしれないが、違う気もする。
原田慶太楼指揮のプロコフィエフ「交響曲第5番」は、細部まで完璧に彫琢され、明解極まりない名演。加えて、輝かしさ、ド迫力のダイナミズム、さらには第3楽章アダージョでの深みもある。
明るく華麗な色彩豊かな響きは、この作品のテーマ「人類の精神の勝利」にふさわしい。東京交響楽団の集中力と技術には感嘆する。コンサートマスター水谷晃以下、全楽員が最高度の燃焼ぶり。原田との信頼感も万全で、相性もぴったり。東響は最高の正指揮者を得た。
原田は、演奏後まず打楽器陣を立たせた。それが納得できる凄演だった。第1楽章のコーダのティンパニと大太鼓の破壊的な打音、シンバルの轟音。第2楽章の小太鼓の切れ味など。
次は金管そして木管全員。第2楽章で大活躍のクラリネットが最初かと予想したが、確かに木管群の優劣は全くつけようがない力演だった。金管の充実ぶりもすごかった。特にトランペット。次はチェロ陣、第2楽章の第1楽章第1主題の再現の艶やかな合奏。それからコントラバス、ヴィオラ、第2ヴァイオリン、第1ヴァイオリン。今日の東響の弦は張りがあった。最後にハープとピアノの順で立たせた。
原田慶太楼と東京交響楽団は今後プロコフィエフを定期的にとりあげると聞いたが、どのコンサートも聴き逃せない。
原田慶太楼©Claudia Hersher 鐵百合奈©井村重人