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Channel: ベイのコンサート日記
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沼尻竜典 東京交響楽団 牛田智大(ピアノ)名曲全集 第166回

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4月10日(土)・ミューザ川崎シンフォニーホール


1曲目はベッリーニ「歌劇《ノルマ》序曲(シンフォニア)」。
オペラを得意とする沼尻らしく、冒頭の緊迫する部分は劇的に描き、ノルマとローマ軍総督ポッリオーネとの二重唱の旋律は繊細に歌わせた。その部分で木管のアンサンブルがもうひとつ揃っていたらさらに良かった。


ショパンの前にベッリーニが選ばれた理由がよくわからなかったが、プログラム解説(榊原律子氏)を読んで納得した。ショパンは1830年11月に祖国ポーランドを離れパリに移るが、そこでベッリーニに会い、彼のオペラが大好きになった。ベッリーニの美しい旋律をピアノでもできないか探求し、《ノルマ》のアリア「清らかな女神よ」のオーケストラパートをピアノに編曲したこともある。

 

2曲目はそのショパンの「ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調」。

牛田智大のピアノを聴くのは久しぶり。男性的でダイナミックな演奏だった。確実なテクニックと美しい音色に彩られたが、客観的に遠くから自分の演奏を観察しているような醒めたところがあり、主情的ではなく、ショパンの詩情やロマンティシズムは感じられなかった。
しかし、アンコールで弾いた「マズルカ第13番イ短調」はショパンの孤独感がよく感じられて心に沁み入る絶品の演奏だった。

 

協奏曲とマズルカという作品自体の違いももちろんあるが、表現の差異が大きく、牛田は今岐路にいるのではないかという思いが浮かんだ。クラシックの日本人ピアニストとして最年少の12歳でCDデビューするなど早くから注目を浴びたが、昨年二十歳を迎え、今後ピアニストとしてどのような道を歩んで行くのか悩む時期なのかもしれない。

 

後半はチャイコフスキー「交響曲第4番ヘ短調」。

オーケストラは14-12-10-8-7の14型。

沼尻は緩急のはっきりとした指揮。木管第1楽章第2主題、第2楽章のオーボエに始まる主題、第4楽章のロシア民謡「野に立つ白樺」の主題など緩徐部分をたっぷりと歌わせた。
 

ただそれがまったりとした雰囲気を醸し、全体的に響きも団子になりがちなため、どこかもたついた印象も受けた。第1楽章終結部で金管による主想主題が出た後、急にテンポが落ちてコラール的な旋律が木管に奏でられる場面ではメリハリのある素早い転換にならなかった。

 

しかし、終わり良ければすべてよし。第4楽章は大いに盛り上がり、コーダは白熱して終わったので聴衆も満足したようだ。拍手は熱狂的で、禁断のブラヴォも聞かれた。

 

演奏の成功は沼尻の指揮もさることながら、第1楽章コーダの弦セクションや、第4楽章の金管の大健闘など、東響楽員の渾身の演奏が寄与した面も大きいと思う。昨年コロナ禍でノットが来日できず、代わりにノットの映像指揮のもと素晴らしい演奏を聴かせた東響の自発性と積極性が今回もよく感じられた。


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