ハーディング 新日本フィル ブリテン「戦争レクイエム」 (1月16日、すみだトリフォニーホール)
最後の合唱が消えてから60秒余り静寂がホールを支配した。自分の頭の中では教会の鐘の音がかすかに響いていたが、テノールのボストリッジが長く頭を垂れていた姿にも強く打たれた。多くの聴衆が「祈り」の気持ちで余韻に浸ったのではないだろうか。
反戦のメッセージより、理不尽に命を奪われたことに対する無念さがこの曲からは感じられる。テノールのイアン・ボストリッジは原詩を書いたウィルフレッド・オーエンの化身のように、痛切な感情を激しい中にも抑制した表現でみずみずしく語りかけるように歌い上げた。
バリトンのアウドゥン・イヴェルセンも最後のソロを味わい深く繊細に歌う。
二人が「さあ、そろそろ僕たちも眠ろう・・・ Let us sleep now 」と声を合わせるところに児童合唱、ソプラノ、合唱が重なってくるクライマックスでの全ての奏者の一体感はこのコンサートの価値を高めた。
ソプラノのアルビナ・シャギムラトヴァは最初から素晴らしかった。何よりも栗友会合唱団(合唱指揮:栗山文昭)が繊細なピアニッシモから厚く強いフォルティシモまで緻密で力のこもった合唱でこのコンサートの最大の功労者だった。
そして東京少年少女合唱隊(児童合唱指揮:長谷川久恵)も天国的な響きをもたらした。聞くところによると児童合唱の位置は、何度も検討され、ホール内では響きすぎるという配慮から、最終的に三階の一番上の下手側ドアの外にひな壇を設置したという。
ハーディングの指揮は最初から最後まで明晰だった。ある意味その冷静な指揮が、ブリテンの「戦争レクイエム」では効を奏し、抑制の中にも強く訴えてくるものがあった。新日本フィルもハーディングの指揮に見事に応えていた。室内オーケストラは崔文洙(チェ・ムンス)が、通常のオーケストラは西江辰郎がコンサートマスターを務めた。
写真:ハーディング (c)Harald Hoffmann、アルビナ・シャギムラトヴァ(c) Andrei Bogdanov、イアン・ボストリッジ(c) Sim Canetty-Clarke、アウドゥン・イヴェルセン(c)