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Channel: ベイのコンサート日記
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読響第642回名曲シリーズ 下野竜也 藤田真央(ピアノ) ラフマニノフ、ストラヴィンスキー

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©読響

5月25日・サントリーホール

プログラム
バーバー:序曲「悪口学校」作品5

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 作品18

ハンナ・ケンドール:スパーク・キャッチャーズ(日本初演)

ストラヴィンスキー:バレエ組曲「火の鳥」(1919年版)


先週のモーツァルトのピアノ協奏曲第21番で、最弱音を多用し唖然とさせた藤田真央。今日のラフマニノフ「ピアノ協奏曲第2番」でも、独自の演奏を聴かせた。弱音をベースとするのは同じだが、ラフマニノフだけあって強音も使う。冒頭の鐘の音を思わせる和音を普通よりも速いテンポで弾く。タッチもその分軽くなる。下野とは打ち合わせができているようで、オーケストラも藤田に合わせ、第1主題をテンポ良く進める。弱音に重点を置き、自由自在にフレーズを伸縮させる。音をはしょっていることはないが、そのように聴こえてしまうこともある。

藤田は、強音を抑え気味に弾くが、オーケストラはそれに合わせることなく、藤田の演奏を飲み込まんとするばかりに分厚く重い音のバックをつける。第1楽章は全体に速めのテンポであっという間に終わった。

 

藤田の行き方が成功したと思ったのは、第2楽章。弱音器を付けたヴァイオリンの透明な音と、藤田の繊細なアルベッジョが一緒になり聴き手を別世界に誘う。ピアノの一人舞台となる中間部は、正に藤田ワールド。妖精が飛び回るような軽やかなタッチと急流のような速い動きは新鮮で、こういうラフマニノフがあってもいいのでは、と藤田の演奏に納得した。

 

映画のテーマにもなった第3楽章第2主題が、オーケストラによって最強音で奏でられる時にピアノの音がかき消されるのは、生の演奏会ではよくあることだが、藤田の弾くピアノがオーケストラの合間から聞こえてきて、彼にもともと備わっているヴィルトゥオーゾピアニストとしての強靭さが終楽章で発揮され、下野読響と大きなクライマックスを作って最後を締めた。

 

藤田のアンコールはまたも最弱音で「モーツァルト(リスト編曲)「アヴェ・ヴェルム・コルプス」。

 

バーバー「序曲《悪口学校》」は、作曲家が21歳の時(1931年)の作品。同名の喜劇的な戯曲にインスパイアされて書いたもの。読響の木管の名手たちのソロがふんだんに聴けた。

 

後半最初のハンナ・ケンドール「スパーク・キャッチャーズ」(日本初演)は、金管が活躍する変拍子の作品。下野竜也は、こうした作品では本領を発揮する。複雑なリズムを鮮やかに振り分け、珍しいことに、読響楽員から公演の最後のように下野に拍手が送られた。

 

プログラム最後はストラヴィンスキー「バレエ組曲《火の鳥》(1919年版)」。下野読響の演奏は立派で熱演だったが、何か決定的にこれだ、というインパクトが感じられなかった。演奏機会が多いため、リハーサルにあまり時間をかけなかったのではという、うがった考えも浮かんでしまったが、一昨年聴いたサロネン指揮フィルハーモニア管弦楽団による全曲の超名演のインパクトがまだ残っているからかもしれない。

 

 


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