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Channel: ベイのコンサート日記
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『I 'm Home! ただいま!』 ジョナサン・ノットのベルク、マーラー《巨人》

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5月27日・ミューザ川崎シンフォニーホール
ジョナサン・ノット 東京交響楽団

児玉麻里(ピアノ) グレブ・ニキティン(ヴァイオリン)

 

ベルク:室内協奏曲-ピアノ、ヴァイオリンと13管楽器のための

マーラー:交響曲 第1番 ニ長調 「巨人」


『I’m Home! ただいま!』と書いた横断幕を、カーテンコールの際、持って現れたジョナサン・ノット。『 Welcome Home! おかえりなさい!』と叫びたい。

 

幸せな気持ちになる演奏会だった。それは、心温まるノットのメッセージももちろんだが、演奏そのものから、聴くものを幸せにし、励ますメッセージが聞こえてきたからでもある。

ノットの指揮からは、音楽を、作品を、東京交響楽団を、そして何よりも聴衆を愛する気持ちが感じられた。隅隅まで心が通っていた。

 

マーラー《巨人》は、想像を絶する最弱音から、頂点に向かって目映いまでの色彩感が広がるクライマックスまで、振幅の大きな演奏は瞬間瞬間に濃密な意味が、メッセージが込められているように思えた。聴き手はまばたきを忘れるほど耳目を集中する。それはなんと心地よく、充足感に満ちていたことか。

 

第1楽章序奏の最弱音で奏でられる弦の音に身も心も吸い寄せられる。バンダのトランペットも遥か遠くから響いてくる。チェロによる主題の柔らかな音。提示部の頂点の色彩感。

 

第2楽章スケルツォは今日の白眉のひとつ。低弦の力強いリズムに乗りヴァイオリンとヴィオラが奏でる勢いのある主題は宝石が輝くように華やかで切れがあり、初めて聴くような新鮮な印象を受けた。

トリオのワルツ風の旋律の淡い夢のような表情もまたノットと東響しか出せない味かもしれない。

 

第3楽章のティンパニが刻む音をバックにコントラバスが奏でる旋律とオーボエが吹くメロディはもの悲しく郷愁に満ち、古い映画を見るような懐かしさを感じる。マーラーが生きていた当時の光景が浮かび上がるようだ。中間部の「さすらう若人の歌」第4部の旋律の儚さ。

 

シンバルの強打で始まった終楽章のノットと東京交響楽団の集中と緊張、筋肉質な力感、磨きに磨いた音の数々は、至福のひと時だった。音楽に満たされる充足感とはこのことか。「最高度の力で」と書かれたコーダの高揚感、絶頂感は、全てから開放され喜びに溢れ、ノットが再び東京交響楽団と奇蹟を起したように思えた。

幸せなコンサート、幸せなオーケストラ、そして幸せな聴衆。

 

前半のベルク「室内協奏曲-ピアノ、ヴァイオリンと13管楽器のための」はピアノの児玉麻里が主役と思えるほど、彼女の存在感が大きかった。透明で奥行きのある音色、生き生きとした動き。それはピアノ協奏曲と言ってよい第1楽章だけではなく、意味ありげに12回鳴らされるピアノの低音が中間部に出る第2楽章や、第3楽章のヴァイオリンとのカデンツァまで、常に児玉麻里が中心にあった。
©東京交響楽団

ニコニコ生放送アーカイブ(映像©東京交響楽団)

https://live.nicovideo.jp/watch/lv331831378


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