(6月30日・よみうり大手町ホール)
遠藤真理が司会者とプレトークをしたが、その語り口のうまさはプロのナレーターのよう。昨年3月までNHK-FM「きらクラ!」のパーソナリティを務めた経験も生きたのだろう。声が良く声楽家にもなれるのではないだろうか。
遠藤も含め読響の若手奏者たちの演奏は、技術的にもレベルが高く、元気がいい。アンサンブルは日頃の演奏で鍛えられており、息も合う。今の読響の勢いをそのまま室内楽でも発揮しており、爽快なコンサートだった。
ベートーヴェンに作曲を教えたこともあるハイドンと同世代のヨハン・ゲオルグ・アルブレヒツベルガー(1736-1809)の「ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲第3番」は、モーツァルテウム音楽大学を最高点で修了した遠藤と、ウィーン国立音楽大学を最優秀で修了した林悠介にオーストリア、ウィーンという共通点があり、長年デュオを組んでいるかのような一体感があり、対位法で書かれた作品を立体的に響かせた。
指揮者のクリストフ・フォン・ドホナーニの祖父であるエルンスト・フォン・ドホナーニ(1877-1960)の「弦楽三重奏曲《セレナード》」は5つの楽章からなるブラームスやドヴォルザークの影響を感じさせる佳作。第3楽章スケルツォの勢いのあるフガートで林、ヴィオラの鈴木康浩、遠藤が名演を聴かせた。
読響打楽器の西久保友広のマリンバと遠藤によるオズバルド・ゴリホフ(1960-)の「マリエル ~チェロとマリンバのための~」は、1999年ゴリホフの友人マリエル・スチュープリンの事故死を悼んで作曲された。マリンバが強打する衝撃音は慟哭のようにホールにこだまする。チェロが哀悼の旋律をかぶせていく。心に響く音楽が深かった。遠藤真理のチェロの美音を心行くまで味わう。
9月29日(水)サントリーホールでの《第611回定期演奏会》でイラン・ヴォルコフの指揮、宮田大のチェロでゴリホフのチェロ協奏曲「アズール」が日本初演されるので、楽しみにしたい。
後半はチャイコフスキー「弦楽六重奏曲《フィレンツェの思い出》」。歌劇「スペードの女王」の作曲のためフィレンツェに滞在した後、ロシアに戻ってから書かれた。タイトルは第2楽章の甘美な主題がフィレンツェで着想されたことによる。イタリア的な要素はなく、ロシア民謡的な情緒や、チャイコフスキーの旋律美が充満する。晩年に書かれたこともあり、作曲技法は精緻なものがある。
林、岸本萌乃加のヴァイオリン、鈴木、森口恭子のヴィオラ、遠藤、髙木慶太のチェロがうねるようにひとつになって動く演奏は、若さとエネルギーの爆発。アンサンブルがしっかりとしているので、響きが洗練されている。オーケストラの楽員による室内楽の長所が良く出ていた。
【出演】
プロデュース/チェロ=遠藤真理(ソロ・チェロ)
ヴァイオリン=林悠介(コンサートマスター)、岸本萌乃加(次席第1ヴァイオリン)
ヴィオラ=鈴木康浩(ソロ・ヴィオラ)、森口恭子
チェロ=髙木慶太
打楽器=西久保友広
【曲目】
アルブレヒツベルガー:ヴァイオリンとチェロのための二重奏曲第3番 イ短調 [林、遠藤]
ドホナーニ:弦楽三重奏曲「セレナード」 [林、鈴木、遠藤]
ゴリホフ:マリエル ~チェロとマリンバのための~ [遠藤、西久保]
チャイコフスキー:弦楽六重奏曲 ニ短調 作品70「フィレンツェの思い出」 [林、岸本、鈴木、森口、遠藤、髙木]