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Channel: ベイのコンサート日記
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衝撃の指揮者登場! ペトル・ポペルカ 日本デビュー! 東京交響楽団 森谷真理(サントリーホール)

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(8月20日・サントリーホール)
ペトル・ポペルカ 東京交響楽団 森谷真理(ソプラノ)
曲目
ウェーベルン:大管弦楽のための牧歌《夏風の中で》
ベルク:歌劇「ヴォツェック」から3つの断章
ラフマニノフ:交響的舞曲 op.45


マティアス・ピンチャーが出演予定だったが、6月10日時点でドクターストップにより、来日できなくなり、ペトル・ポペルカに替わったもの。結果的にこれがポペルカを聴ける得難い機会になった。(曲目はピンチャー自作の「牧歌─オーケストラのための」がベルク「《ヴォツェック》から3つの断章」に変更されたのみ)
 

タイプは異なるが、クラウス・マケラのような衝撃の指揮者登場と言えるほど、素晴らしい演奏だった。

 

具体的に何が凄かったのか

第1に、オーケストラにとって理想の指揮者であること
奏者一人一人とポペルカが直接結びついているような印象。楽員は自分の音をポペルカが良く聴いている感覚、繋がるものを感じながら演奏していたのではないか。ポペルカと東響の一体感、結束力が素晴らしかった。公演終了後の楽員たちのポペルカを讃える拍手や足踏みは、ノット以上のものがあった。

 

第2に、生まれる音楽の完成度の高さ
ぎっしりと中身が詰まっていて、作品が細部まで聞こえてくる。楽器ごとの音色を的確に引き出す。ダイナミックな強音から繊細な弱音まで、幅が広く、緻密。

アーティキュレーション(音の切り方、つなげかた)や、流れが自然で無理がない。聴いていて納得できる。

 

第3に、様式感を持っていること

ウェーベルンにしても、ベルクにしても、ラフマニノフにしても、「様式」=「背後の精神世界に裏打ちされた作曲家ごとの特性」が、説得力を持って聴き手に伝わってくる。

それぞれの作品にふさわしい響き、表情、曲想の変化、奥行き、色彩が生まれていた。

 

ウェーベルン「大管弦楽のための牧歌《夏風の中で》」
冒頭の弦の弱音が凄い。繊細で分厚いハーモニー。繊細な響きが幾重もの層を織りなして聞こえてくる。ウェーベルンが21歳のときの作品で、R.シュトラウスやシェーンベルクの初期の音楽に似た濃厚な音楽だが、そのロマン性や官能性を色彩豊かに描いていった。東響は最初から集中して大健闘だったが、まだ個々の楽器の音色やバランスにすこしチグハクしたところもあり、たぶんポペルカの頭の中には、さらに洗練された緻密な音楽が鳴っていたと思う。

 

ベルク:歌劇「ヴォツェック」から3つの断章
ベルクも同じく、オーケストラの音はものすごく緻密な音がぎっしり詰まっている感じがある。

森谷真理の歌唱は素晴らしかったが、5月24日同じサントリーホールで聴いた上岡敏之指揮読響の際の方が、舞台の後方で歌ったにもかかわらず、声が前に飛んできていた。

 

後半のラフマニノフ「交響的舞曲」は超名演。野性味があり、ダイナミックで、バランスが素晴らしく、最強音でも明快に音が分離する。第1楽章中間部のアルトサクソフォンが吹くロマンティックな主題を受け継ぐ弦の音がとにかく美しい。全てのプルトが弾ききっていて、実に気持ちがいい。オーケストラが理想的に鳴っている。


第2楽章のファンファーレの金管の斉奏のバランスが良い。続くフルート相澤政宏、コンサートマスター小林壱成、オーボエ荒木奏美のソロも素晴らしかった。哀愁と不安が織りなすワルツが夢幻的に奏でられていくが、その表情やリズム、抑揚がこの作品にぴったりで地に着いている。

 

第3楽章はダイナミックで推進力が強い。ティンパニの清水太の打音は重心が低くインパクトがある。中間部のワルツ的なメロディの弦の厚みも良かった。「怒りの日」のテーマが金管に現れ高揚して行き、打楽器群の強烈な打音とともに終わるコーダも衝撃的で爽快。

 

東京交響楽団はメンバーが心の底から指揮者に共感していることが伝わってくる気持ちの入った演奏だった。この感覚は、マケラと都響の相思相愛ぶり、一体感と似ている。凄い指揮者だが、経歴は以下の通り指揮者に転向してから、まだ日は浅い。2021年ウィーン交響楽団への客演が大成功で、すぐツアーに誘われたという。今後デビューするヨーロッパやアメリカのオーケストラとも成功を収めるのは確実、あっという間に世界の楽壇のトップに躍り出てくると予想される。

 

ペトル・ポペルカのプロフィール

チェコ、プラハ出身。2010年から19年、ドレスデン・シュターツカペレでコントラバスの副主席を務める傍ら、2016年から指揮をはじめ(まだ6年!)、2017年ネーメ・ヤルヴィ賞を受賞。2020年8月ノルウェー放送管弦楽団首席指揮者を皮切りに、若手指揮者としての地位を確立。母国チェコ・フィル、NDRエルプフィル、フランクフルト放送響、などを指揮。

 

今年から来年にかけて、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管、シュターツカペレ・ベルリン、バンベルク響、ケルンWDR響、アトランタ響へのデビューを控えている。

今年9月から、プラハ放送交響楽団の首席指揮者・芸術監督になることが決定している。

 

同オーケストラのディレクター、ヤクブ・チジェックはこう語る。
『今年初め、ペトル・ポペルカが率いるオーケストラをルドルフィヌムで見聞きしたことは、私が長い間体験してきた中で最も強い音楽体験であり、パンデミックの苦しみを癒すのに大いに役立つ体験だった。ペトルがオーケストラのメンバーに伝えるエネルギーは、信じられないほどだった。彼は非常に才能があり、音楽的で、インスピレーションを与えてくれる人です。そのような音楽家と一緒に仕事ができることは、私たちにとって大きな喜びです。このパートナーシップをとても楽しみにしています!』
引用元↓

Petr Popelka to become the new Chief Conductor of the Prague Radio Symphony Orchestra - Nová Večerní Praha (vecerni-praha.cz)

オペラも指揮する予定が入っており、ドレスデン・ゼンパーオーパーでショスタコーヴィチの『鼻』の新演出、プラハ国立劇場でビゼーの『カルメン』の新演出、さらにモーツァルトの『フィガロの結婚』の連続公演が予定されている。

 

これだけ世界中からひっぱりだこになっている状況では東響との再共演はハードルが高いかもしれない。ただ、本人は東響との共演に大満足だったようなので、ぜひ実現してほしいものだ。
 

 


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