(8月19日・東京オペラシティ)
飯森範親(指揮)、髙木凜々子(ヴァイオリン)、中井貴惠(語り)、森 麻季(ソプラノ)、金子美香(メゾ・ソプラノ)、パシフィックフィルハーモニア東京クワイア(合唱)、岸本大(コア・マイスター)、ヘンリック・ホッホシルト(ゲスト・コンサートマスター/ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団コンサートマスター)
前半は、髙木凜々子によるメンデルスゾーン「ヴァイオリン協奏曲」。
髙木は(株)黒澤楽器店から貸与されたストラディヴァリウス「Lord Borwick」(1702年)を2年ほど前から使用しているが、当時のインタビューでは「なかなか思うような音が出せず7ヵ月立ってやっと出したい音が少しずつ出せるようになった」と語っている。また、「高音がすごくよく響く」とも話していた。
髙木の演奏は初めて聴いたが、メンデルスゾーンの冒頭のソロを聴いて、硬くきつい音がするので驚いた。彼女の個性というよりも、楽器の特性による要素も大きかったのだろう。
第1楽章展開部から再現部は、音が落ち着き表現力も増した。素晴らしかったのは第3楽章。2つの活気ある主題を、実に楽しそうに乗りよく弾いていき、盛り上がった。
飯森範親パシフィックフィルハーモニア東京(以下PPT)も、勢いと一体感のある演奏で、高木をフォローした。
コンサートマスターに、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団コンサートマスターのヘンリック・ホッホシルトが参加しており、アンサンブルがより引き締まっていたように感じた。
高木のアンコールは、パガニーニ「カプリース第24番」。オクターヴの重音、ハイポジションの半音、G線とオクターヴの連続、10度の重音、左手のピッツィカートの連続、フラジョレットなど、ヴァイオリンの超絶技巧のオンパレード。高木は大健闘だった。
今日のメインはメンデルスゾーン劇付随音楽「真夏の夜の夢」。通常は抜粋で演奏されるが、今回のようにカットなし、ソプラノ、メゾ・ソプラノ、合唱、さらにナレーションまで加わる形での上演は珍しい。私も実際にこの形で聴くのは初めてだ。
素晴らしく充実した演奏であり感銘も深かったが、最大の立役者は、中井貴惠(語り)だった。2009年から小津安二郎映画のト書きから出演者すべてのセリフを一人で朗読するという、とてつもない公演を全国で継続している実力は、公演の成功に計り知れないほど大きな貢献を果たす形で発揮された。
セリフは物語の登場人物たちが目の前に出現するようなリアリティ、臨場感を持って朗読されていく。それは聴き手にとって、文字通り真夏の夜の夢のように魅惑的で、舞台芸術の極致を堪能するようでもあった。一人語りの凄みすら感じさせた。
演奏面では、「スケルツォ」の弦の音がきめ細やかだったこと。また荒川洋のフルートが光っていた。「夜想曲」のホルンの重奏も良かった。ここでも弦の音が充実。「結婚行進曲」は速めのテンポで格調高く、祝祭の音楽にふさわしい晴れやかさがあった。
第1の妖精の森麻季が歌う「ぽつぽつ模様のお蛇さん」は美しい高音が印象的。第2の妖精の金子美香も好調。パシフィックフィルハーモニア東京クワイアは、プロ歌手により構成されており、まとまりが良かった。
中井貴惠の妖精パックによる劇の最後の口上は『オペラシティの隅から隅までつゆを降り注ぎ、全ての人に幸せが訪れるように』で終えた。
口上どおり、とても幸せな時間をもらったコンサートだった。