今回が初来日のナタリー・マンフリーノ。最高のドラマティック・ソプラノだ。聴けてよかった。身体の中に、巨大な溶鉱炉があるのではないか。熱く燃える炎が歌声に乗って、小ホールを突き破るような勢いで飛び出してくる。NHKホールくらいの巨大な会場の最後列まで、楽々と届くような豊かで強靭な声。ただ大きく強いだけではなく、艶もあり、弱音もコントロールされている。音を高く遠く飛ばし、最後を消え入るように繊細に終わらせるテクニックも持っている。
彼女の持ち味が最も発揮されたのは、前半最後に歌った、マスネ「彼は優しい人」歌劇《エロディアート》より。サロメが預言者ジャンの素晴らしさを称える歌。<愛する預言者よ、あなたなしでなぞ、生きられまい!>の鋼の強さを持った声に、ブラヴァ多数。
次に、最後に歌ったヴェルディ「神よ平和を与えたまえ」歌劇《運命の力》より。レオノーラが引き裂かれた恋人アルヴァーロへの思いから抜け出せずにいる自分に、神に死で安息を求める歌が、劇的で素晴らしかった。
聴衆の熱い反応に乗ったのか、アンコールは3曲。それらが全て良かった。ドラマティック・ソプラノにぴったりのベッリーニ「神聖な女神よ」歌劇《ノルマ》よりと、「ある晴れた日に」歌劇《蝶々夫人》より、は当然として、リリックに向いた「私のお父さん」歌劇《ジャンニ・スキッキ》が、涙がでるくらい良かった。彼女の明るいキャラクターと歌がぴったりと重なったためではないだろうか。
ビゼー「何が出て来たって怖くはないわ」歌劇《カルメン》よりのミカエラや、プッチーニ「私の名はミミ」歌劇《ボエーム》のような、素朴で純真で、どこか弱さを持った歌には、マンフリーノの声は少し強すぎるようだ。
ピアノはヨーロッパで活躍中で、マンフリーノを始め、ゲオルギュー、フェリシティ・ロットなどとも共演している中野正克。プログラム最後の曲、3曲のアンコールを終わった後、マンフリーノは中野を抱擁して、お互いを讃えあっていた。
ナタリー・マンフリーノはフランス生まれ。プラシド・ドミンゴ、ロベルト・アラーニャとの共演など、数多くのオペラに出演。デッカレーベルから2枚のアルバムを発売。2011年フランス共和国より芸術文化勲章「シュヴァリエ」を授与されている。