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Channel: ベイのコンサート日記
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アジアユースオーケストラ マーラー:交響曲第1番「巨人」

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(731日、東京オペラシティコンサートホール)

 毎年心を洗われるようなアジアユースオーケストラ(AYO)。プロオケにはない純粋さから生まれる爽やかさは彼らのコンサートでしか体験できない。指導者が同じためか、AYO独自の音は健在。聴くと「そうだ、この音だ」と思う。今年は昨年以上に演奏に張りがあるように感じた。

 

 指揮はジェームス・ジャッド。芸術監督のリチャード・パンチャスよりも音楽性が深く、切れ味の鋭い指揮をする。マーラーの交響曲第1番「巨人」は、まさに青春真っ盛り、胸がすくように爽やかな演奏。特に第2楽章の切れ味は爽快だった。

 AYOは全員が等しく集中し、弦は最後のプルトまで、全力で弾く。日本のオーケストラのように、トップのボウイングに合わせるというようには見えない。

 最長、最大規模の第4楽章は、見通しがよく、わかりやすい演奏。ジャッドはAYOのメンバー同士が聴き合い、理解しやすいように指揮したとも言える。それが聴き手に良く伝わってくる。こういう一本筋が通った若々しい演奏は「巨人」にふさわしい。

 

 前半1曲目は、プログラムにはない黄俊諱(Wong Chun Wai)「霊魂の翼」が世界初演された。香港の若い作曲家で、純クラシック以外に映画音楽やミュージカルも手掛ける。世界各国の作曲コンクール入賞の履歴がある。ジャッドのスピーチの聴きとりによれば(正確ではないかもしれないが)、忙しい香港の日常を描いたものだという。静かな夜明けのような描写に始まり、活気に満ちた音楽が続き、それが形を変えもう一度繰り返される。6分ほどの短い作品。映画音楽のようでもあった。
 

 ブルッフのヴァイオリン協奏曲第1番のソロは、26歳のチェコの若手、ジャン・マレーセック。日本デビュー。2008年ブラームス国際コンクール優勝、聴衆賞。2011年フリッツ・クライスラー国際コンクール優勝。安定した技術と、緩徐楽章での艶やかな音色が特長だが、やや表現が単調なのは若さと経験の少なさか。ジャッドとAYOは、彼を盛り立て、両者の一体感が感じられた。アンコールは、クライスラーの「レチタティーヴォとスケルツォ 作品6」。音の艶やかさがもう少しあればさらにいい演奏になったと思うが、よくこなれていた。

 

 今年のAYOはいつもよりひと月早く日本に来た。例年は日本が公演最終地だが、今年は設立20周年記念で、このあとアメリカとヨーロッパツアーが予定されている。日本人は16人参加している。台湾からの参加が32人と一番多い。

 


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