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Channel: ベイのコンサート日記
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西本智実 日本フィル 小林美樹(ヴァイオリン) (7月6日、横浜みなとみらい 大ホール)

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 西本智実の指揮は20数年前のデビュー当時と、昨年の2度聴いただけだが、そのときの演奏は表面をなぞるような浅さがあり、あまり良い印象ではなかった。しかし、今日聴いたプロコフィエフには感心した。

 「交響曲第1番《古典交響曲》」の第1楽章と第4楽章はスピード感もあり生き生きとした表情と生命力があった。緩徐楽章の第2楽章と第3楽章は優雅な雰囲気。

 

 プログラム後半の「バレエ音楽《ロメオとジュリエット》」抜粋(西本智実版)はさらに充実していた。西本智実は全52曲の全曲版から主要な楽曲13曲を選んだ。いきなり第1幕「ヴェローナの広場」、第1場、第7曲「大公の宣言」の強烈なオーケストラの総奏で聴衆の度肝を抜く。すぐ第2場、第10曲「少女ジュリエット」の可憐な音楽に飛ぶなど、聴き手を飽きさせないものになっていた。

 

 最も有名な第4場「騎士たちの踊り」もスケールが大きく、威圧的な強さは充分。感心したのは第36曲「第2幕の終曲」。西本智実は指揮台の上で音が聞こえるくらい足を踏ん張り、強烈な大音響をオーケストラから引き出し、これまでのなぞるような指揮という印象を覆した。ただ第4幕エピローグの2曲、第51曲「ジュリエットの葬式」は、さらなる劇的な表情や悲痛さが出ていたらもっと良かったのではないだろうか。

 

最後の第52曲「ジュリエットの死」は「愛の主題」が奏でられ、モンタギュー家とキャピレット家の和解の明るい希望に満ちた音楽で静かに終わる。「悲劇的結末」を期待する日本人的聴き手の一人としては、悲劇は悲劇のまま終わってほしい。ホールの他の聴衆も同じように感じたのか、「あれここで終わるの?」というように微妙に拍手のタイミングがずれたのを見て、「やはりみなさんも同じでしたか」と微苦笑させられた。

 アンコールは古典交響曲の第3楽章から転用された第18曲「ガヴォット」が演奏された。

 

 小林美樹は音色が美しくスケールの大きな演奏でデビュー当時から注目し、応援しているヴァイオリニスト。メンデルスゾーン「ヴァイオリン協奏曲」で久しぶりに聴く演奏は以前と変わらずおおらかな表情と美音の聴きやすいものだったが、期待が大きすぎたこともあり、演奏の起伏や表情の細やかな変化、そして演奏にさらなる深みがほしいと感じた。アンコールのバッハ「無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番ラルゴ」にも同じ感想を持った。
 

 幾多の巨匠たちに弾きつくされ、聴かれ過ぎた名曲であり、その中で競い合い新しい新しい表現を開拓し、名手たちの解釈と差別化を図ることは至難の業であることは充分承知の上で、小林美樹は聴き手の高すぎる要望にぜひ応えエベレストの頂上を目指してほしい。これからも期待し、応援したいアーティストであることに変わりはない。

 

 

 

 

 

 


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