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Channel: ベイのコンサート日記
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ミュージック・マスター・コース・ジャパン ヨコハマ2019 オーケストラ・コンサート 

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714日、横浜みなとみらい 大ホール)

 ミュージック・マスター・コース・ジャパン(MMCJ)は2001年に大友直人とアラン・ギルバートが創設した国際教育セミナー。今年で19回目を迎える。発足当時は千葉県で行われていたが、現在は横浜をベースにしている。

 

同じような教育セミナーとしては1990年にバーンスタインにより創設されたパシフィック・ミュージック・フェスティバルがあるが、それより以前1988年のタングルウッド音楽祭で二人はセミナーのアイデアを話し合っていた。

 

目的は日本の音楽界の真の国際化。

海外演奏家と日本人演奏家の垣根をなくし、日本の音楽界がもっと開かれたものになること。海外の音楽学生が同世代の日本の音楽家と日本で共に学び、日本を拠点に活動すれば状況が少しずつ変えられるのではないかという目標を大友は抱いている。これまで延べ524名がセミナーを修了し、活躍している。

 ある修了生は『日本の受講生にとっては日本に居ることを忘れてしまう様な国際色豊かな時間。海外からの受講生は音楽祭という目的で来るには難しい日本で、多くの素晴らしい経験ができる。』と語った。

 

今年は厳しいオーディションから七か国21名が選ばれた。621日から3週間の合宿では、4組の四重奏と1組の五重奏に分かれ中身の濃い室内楽の指導を受けてきた。ここ数日は2回のオーケストラ・コンサートのリハーサルに専念してきた。

 

世界の一流オーケストラの首席やコンサートマスターから構成される講師12人の顔ぶれは19年間ほぼ不変とのこと。

大友直人、アラン・ギルバートの他、ジェニファー・ギルバート(音楽監督、リヨン国立管コンマス)、マイケル・ギルバート(芸術監督、元ニューヨーク・フィルvn奏者、ジュリアード音楽院元教授)、ハーヴィー・デ・スーザ(vn、アカデミー室内管首席)、建部洋子(vn、元ニューヨーク・フィル)、マーク・デスモン(vaフランス放送フィル首席)、鈴木学(va 都響ソロ首席)、ニコラ・アルトマン(vcリヨン国立管ソロ・チェロ)、カイサ・ウィリアム=オルソン(vc、ロイヤル・ストックホルム・フィル首席)、エリック・キム(インディアナ大学ジェイコブス音楽院教授)、ヴィセンテ・アルベローラ(cl マーラー室内管首席)。

 

大友は演奏前のトークで、言葉の壁を乗り越え、お互いにコミュニケーションをとり音楽を作り上げていく過程で、音楽を演奏するにも手間暇がかかること、簡単にはできないことを学生たちに学んでほしいと語った。会話は英語を基本としている。

 

 ミュージック・マスター・コース・ジャパンは参加者全ての費用、渡航費、宿泊費を負担している。横浜市や企業、個人の支援も受けているが、大友直人の個人的な出費もかなりの額になるという。20年近く維持してきた大友の決意がいかに固いか、頭が下がる。ロビーでの募金にささやかながら協力した。

 

今日のオーケストラ・コンサートには講師陣、参加学生のほか過去のセミナーに参加したOBや、大友の趣旨に共鳴するサポーティング・アーティストも加わった。ティンパニはN響の久保晶一や第2ヴァイオリンに新日本フィルの佐々木絵里子などの顔が見えた。

 

コンサートについて。

1曲目は指揮者なしで、ハイドン「交響曲第44番ホ短調《悲しみ》」。コンサートマスターはアカデミー室内管首席のハーヴィー・デ・スーザ。ヴァイオリンの音が素晴らしい。艶があり、品格のある美しい響きがする。その響きは3年前の・サー・ネヴィル・マリナーの最後の来日コンサートで聴いたアカデミー室内管の響きを思い出させた。

それは『最高級の絹織物のように滑らかで光沢があり、その精緻なアンサンブルは最上の絹糸のように繊細。高貴な気品をたたえた、えも言われぬ響き』と書いていた。

 

長く講師を務めるデ・スーザが指導する音が、ミュージック・マスター・コース・ジャパンの「伝統の響き」として定着しているのではないだろうか。ただ、ヴァイオリンに比べヴィオラとチェロが少し弱い。もっと積極的に前に出てほしい。

 

難曲と大友直人が紹介したシェーンベルク「室内交響曲第1番ホ長調」はMMCJとしては最大の12型の編成。指揮はMMCJ芸術監督のマイケル・ギルバート。複雑な構造の作品でフレーズがリズムも含めて頻繁に変わるので、全員のタイミングを合わせるのが難しそうだった。

 

後半は大友直人の指揮。

最初は2017年にMMCJが委嘱した萩森英明の「Novelette for VioletteOn a Theme by Scarlatti」。すみれの花を歌ったスカルラッティのアリア「La Violette」のモチーフを使いオーケストラ用の小品として作曲したもの。

グリーグや英国の作曲家の田園をテーマにした作品を思わせる可憐な内容で、とても爽やかな印象を受けた。次のシベリウス「交響曲第2番」の前奏曲としてふさわしい。
 

シベリウス「交響曲第2番ニ長調」の編成は12-10-8-6-4。最初のハイドンで感じた弦楽器の良い点が発揮され、爽やかでしなやかなシベリウスだった。音楽的な響きを大切にしながら美しいハーモニーをつくっていった。コーダの金管の盛り上げは壮大で、充実した演奏が展開された。オーケストラの響きとしてはプロのオーケストラに決して引けを取らない。学生と講師陣の一体感が緊密で、響きの美しさ、音楽の深さでは勝っているところもあると思った。

 

来年は記念すべき20周年を迎えるミュージック・マスター・コース・ジャパン。今後も応援していきたいと思う。

写真:() T.Tairadate

 


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