読響第590回定期演奏会。ハンガリーの指揮者ヘンリク・ナナシ*が、コダーイ「ガランタ舞曲」とバルトーク「管弦楽のための協奏曲」を指揮、間に1990年フランス生まれのリュカ・ドゥバルグ**がサン=サーンス「ピアノ協奏曲第5番《エジプト風》」を弾いた。
高関健が東京シティ・フィルでコダーイの作品を指揮したときプレトークで、『ハンガリー語は第一母音にアクセントがあり、それは音楽語法にも共通する』と話していた。
ハンガリー語は全くわからないが、スラヴ語の影響も受けているためかロシア語を少し柔らかくしたように聞こえる。
コダーイ「ガランタ舞曲」は前に前にとリズムが行くように聞こえたが、これはハンガリー語というよりロマの2拍子の舞踏音楽が持つ伝統のリズムのためだろう。ナナシの指揮は粘りがあり、どこかエスニックな香りはするものの、ハンガリーの草原のような土臭さはあまり感じられなかった。クラリネットの金子平のソロは滑らかで素晴らしかった。
ドゥバルグのサン=サーンス「ピアノ協奏曲第5番《エジプト風》」はきらびやかで色彩豊か、フワフワとした柔らかな響き、きらめくような音色が作品にふさわしい。ナナシと読響、ドゥバルグが一体となって盛り上がる終楽章は豪華絢爛。
ドゥバルグがアンコールに弾いたサティ「グノシエンヌ第1番」は不思議な響きで、どこか他の世界に聴く者を連れ去っていくように聞こえた。
後半はバルトーク「管弦楽のための協奏曲」。ナナシの指揮を見ていて、ふと同じハンガリーの指揮者サー・ゲオルグ・ショルティに腕の使い方が似ていると思った。肘をまげて腕を小刻みに速く動かす姿がショルティと重なる。音楽の方向も似ているように感じたのは私だけだろうか。
「管弦楽のための協奏曲」は重く厚い響きのシンフォニックな演奏とは一味違い、切れ味の鋭い緊張感のある演奏。第3楽章エレジーはその良い例だ。その前の第2楽章「対の遊び」では読響の木管の妙技を味わえた。第5楽章「終曲」もスピード感のある明解な演奏だった。
*ヘンリク・ナナシはバルトーク音楽院でピアノと作曲を学び、ウィーン国立音楽大でも学んだ。2012年から17年までベルリン・コーミシェ・オパーの音楽監督を務めた。パリ・オペラ座、バイエルン国立歌劇場、英国ロイヤル・オペラ、ドレスデン歌劇場など名門オペラハウスで活躍、今年1月バルトーク《青ひげ公の城》を指揮してメトロポリタン歌劇場にデビュー、成功を収めた。
ヘンリク・ナナシ(c)Marco Borrelli
**リュカ・ドゥバルグは1990年パリ生まれ。2015年チャイコフスキー国際コンクールで優勝候補筆頭とされたが、結果は第4位。しかしモスクワ音楽批評家賞を受け、ゲルギエフやクレーメルと共演。文学・映画・絵画・ジャズにも関心を持つ。ソニークラシカルから3枚のCDをリリース。
リュカ・ドゥバルグ(c)Lucas Debarague's facebook