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鈴木優人 日本フィル 辻彩奈(ヴァイオリン) ステンハンマルとシベリウス

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(5月29日・サントリーホール)

ステンハンマル:序曲《エクセルシオール!》

シベリウス:ヴァイオリン協奏曲 ニ短調 op.47

シベリウス:交響曲第6番 ニ短調 op.104

 

日本フィルは12-10-8-6-5の編成。ソロ・コンサートマスター木野雅之とコンサートマスター田野倉雅秋がツートップで並ぶのは、元来ピエタリ・インキネンが指揮するということで予定されたのだろうか。定期初登場の鈴木優人にとっては(「とっておきアフタヌーンコンサート」と「フレッシュ名曲コンサート」の二度共演)頼もしいものがあったのではないだろうか。

 

ステンハンマル「序曲《エクセルシオール!》」は、密度の濃い響きで、きっちりとはしているのだが、音楽が外に発散されず、表情が硬く感じられた。

 

しかし、日本フィルのお家芸とも言うべきシベリウスとなると、オーケストラが生き生きとし始め、ステンハンマルの時とは別のオーケストラのように、のびやかで豊かな響きをとりもどした。

 

シベリウス「ヴァイオリン協奏曲」は、辻彩奈のヴァイオリンが冴え渡った。艶のある高音からスケールの大きな低音まで、ダイナミックレンジが広大で奥が深い音で、楽器(ガダニーニ)を鳴らし切る。辻は作曲家と作品に真正面から対峙し、余計なものは削ぎ落とす。ストレートだが音楽が豊かで、充実している。シベリウスのヴァイオリン協奏曲の全貌を余すところなく描いた演奏だった。

 

辻の演奏で素晴らしいと思った箇所を以下に挙げる。

 

第1楽章:

冒頭のソロ・ヴァイオリンによる第1主題は、ピンと張った鋭く繊細な音。芯がしっかりとしており、艶もあり、神経に触るような高音とは無縁。

 

第2主題のあと、長いトリルを経て第3主題に繋いでいく部分は、テンポを落とし、たっぶりとした表情をつけ、実に大きなスケールで弾いた。

 

カデンツァは圧巻。驚いたのは、フレーズが変わるごとに音色や表情が千変万化すること。その深い表現力は、これまで聴いてきた様々なヴァイオリニストの中でもずば抜けていた。

再現部の第2、第3主題も辻はスケールが大きな演奏を聴かせた。

 

第2楽章:

辻は一段と艶を増したヴァイオリンを駆使し、チェロの味わい深いピッツィカートをバックに息の長いフレーズをのびやかに奏でた。その自由で解放感のある演奏はまるで北欧の空高く鷲が悠々と舞うようだった。

劇的な中間部では鈴木優人と日本フィルの演奏も光った。木管の温かな音、分厚い低弦の響き、輝きのある金管。辻の演奏もその響きと共に盛り上がる。辻のフラジオレットとオーケストラが一体となった終結部の弱音の繊細な表情は特に素晴らしいものがあった。

 

第3楽章:

辻は技巧的なこの楽章を文字通り完璧に弾いた。音程、アーティキュレーション(音の切り方つなぎ方)、重音の濁りのなさ、決然とした強音のゆるぎなさ。
鈴木と日本フィルも温かな響きで辻をバックアップする。辻は高音のフラジオレットでは余裕すら感じさせた。大きなうねりとともに飛び込むコーダでは辻、鈴木と日本フィルが着地をピタリと決めた。

 

辻のアンコールは、日本フィルソロ・チェロの菊池知也とデュオで、シベリウス「水滴」。この曲はシベリウスが10歳で初めて作曲した作品。ピッツィカートだけで演奏される。素朴でかわいらしい。

(youtubeに前田朋子さんとルドルフ・レオポルドさんの演奏があったので貼っておきます。)

https://www.youtube.com/watch?v=HxHF0ttryNM

 

 

後半は、鈴木優人自身がシベリウスの交響曲の中で一番好きだと言う交響曲第6番。

プレトークで鈴木優人は作品について熱く語った。

・全編を通して清浄な雰囲気がある(シベリウスの言葉「色鮮やかなカクテルではなく一杯の清らかな水」を引用)

・曲はオーケストラの内声を担当する第2ヴァイオリン、ヴィオラから始まる。冒頭の雰囲気が最後に戻ってくる。

・ハープの活躍。

・第3楽章出だしのトロンボーンを支えるのにテューバを使わず、あえてバスクラリネットを使い、オルガンのような効果を出す。

・4つの楽章それぞれの最後に小さな短いフレーズがあり、それが次につながる。

・調性がグレゴリア聖歌にある教会旋法のひとつドリア旋法が使われ、レミファソラシドレの音階で、時空を旅するようだ。

 

鈴木優人の指揮はその熱い思いが伝わってくるような、メリハリがあるもの。同時に清らかな流れもあった。

第1楽章は速めのテンポで若々しい。最後に天に向かって上昇していくような旋律の結尾にはっきりとしたアクセントをつけた。

 

第2楽章は少し繊細過ぎるくらいの透明感のある弦から始まった。後半のポーコ・コン・モートの木々のざわめきのような弦や小鳥のさえずりを思わせる木管の響きが爽やか。

 

第3楽章は付点リズム(三拍子だが裏拍で二拍子のように聞こえる)が爽やかに刻まれる。日本フィルのフルート(真鍋恵子)とオーボエ(杉原由希子)がいつもながらの瑞々しく美しい音で魅了する。

 

第4楽章は、鈴木が決然とした響きで始めた。中間部の激しいクライマックスは力強いが、爽やかな感覚を感じさせる点が鈴木らしい。結尾のドッピオ・ピウ・レント(さらに倍ほどの速さで)は宗教音楽的になり、今の重苦しい世界の中にあって、明るい希望を感じさせた。

 

二本のフルート、ティンパニのひそやかなロールに続いて弦が上昇し突然終わる最後は、少しあっさりとしており、もう少し細やかで神聖な雰囲気をつくっても良かったのでは、と少し惜しい気持ちがした。

 

これまで二度の共演があるとはいえ、インキネンの急な代役で登場し、シベリウスの交響曲について一家言を持つ日本フィルに真っ向から挑み、自分が目指すシベリウスを創り上げた鈴木優人を讃えたい。

鈴木優人©Marco Borggreve 辻彩奈©Kamiya Makoto


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