
(1月19日、王子ホール)
イザベル・ファウストのソロ・リサイタル。プログラム前半はバロック時代の作曲家ヴィルスマイヤー、ギユマン、ビゼンデル、ビーバーの無伴奏作品で、これらはバッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータに影響を与えた。後半はバルトークの無伴奏ヴァイオリン・ソナタで、バルトークは作曲にさいしてバッハから多くのヒントを得ている。
ファウストは1曲目のヴィルスマイヤー「パルティータ第5番」では指定されたスコルダトゥーラ(E線を1音下げD音にする調弦)にしたヴァイオリン「ヤコブ・シュタイナー」とバロック弓を使用した。ちなみに、ヤコブ・シュタイナーはバッハやヴィヴァルディの時代にはストラディヴァリウスよりも評価が高く、コレッリやタルティーニも愛用していた。
他の曲はストラディヴァリウス「スリーピング・ビューティー」とバロック弓を使って演奏したが、作品的にはそれほど深いものは感じられず、ファウストの艶やかでみずみずしい音を聴くことに意味があるように思えた。しかし最後のビーバーの「パッサカリアト短調」はバッハのシャコンヌへの影響が指摘されるように、その変奏の有様はバッハの世界と通じるものがあり、感銘を受けた。
後半のバルトークの無伴奏ヴァイオリン・ソナタは「スリーピング・ビューティー」と通常の弓を使用。第1楽章が終わったあと調弦していたが、確かに音程がどこかおかしく、音楽にも勢いがないまま終わった印象があった。しかし第2楽章最後から突然音楽に生気が蘇り、第3楽章メロディア、アダージョでは最高の演奏を聴くことができた。弱音器をつけた中間部、緊張の糸が極限まで張りつめた繊細な弱音が奏でられている間は時間が止まったようだった。
第4楽章プレストのスピード感と力のみなぎった演奏には民族色は感じられず、非常に理知的で都会的で、ファウストの演奏の特徴の一部が理解できた。
アンコールは今回のプログラムの隠れた主役、バッハの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番からの「ラルゴ」で締めた。
NHKテレビの収録があり、2月26日(金)朝5時からBSプレミアム「クラシック倶楽部」で放送される。
(c) Felix Broede